説明

山留および山留構築方法

【課題】傾斜地であっても、隣接地の所有者と交渉することなく、切梁の反力を確実にとることができる山留を提供すること。
【解決手段】山留1は、敷地10に建物を構築するためのものである。この山留1は、敷地10の山側に構築された第1山留壁21と、床付面11に設けられて建物の複数の杭30Aの杭頭に固着された受け部40と、この受け部40と第1山留壁21との間に架設された切梁52と、を備える。よって、受け部40に作用する水平力に対して、受け部40と床付面11との摩擦力および各杭30Aのせん断力で抵抗する。したがって、各杭30Aの負担する水平荷重を小さくできるから、アンカーが不要となり、隣接地の所有者と交渉することなく、切梁52の反力を確実にとることができる。また、各杭30Aの杭頭に作用する水平力が小さくなるので、杭が損傷するのを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山留および山留構築方法に関する。詳しくは、傾斜地に構造物を構築するための山留および山留構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地下に躯体を構築するため、山留が設けられる場合がある。この山留は、地下躯体の位置を囲んで枠状に構築される山留壁と、この山留壁のうち互いに対向する部分同士の間に架け渡される支保工と、を備える。山留壁には背面の土砂が側圧として作用するため、この支保工を介して、互いに対向する山留壁で反力をとっている。
【0003】
ところで、敷地が傾斜地であり、敷地の山側にのみ山留壁を設ける場合がある。この場合、谷側には山留壁が存在しないため、山留壁の反力をとることができない場合がある。
【0004】
そこで、アースアンカー工法やアイランド工法が知られている。
アースアンカー工法は、山留壁の背面の地盤に向かってアースアンカーを打ち込んで、この地盤から反力をとる工法である。一方、アイランド工法は、敷地の中央部に躯体の一部を先行して構築し、この構築した躯体と山留壁との間に支保工を架設する工法である。
【0005】
しかしながら、アースアンカー工法では、敷地の隣接地の所有者にアンカーを打ち込むための許可が必要となるため、実施できない場合があった。
また、アイランド工法では、躯体の一部を先行して構築するため、支保工を架設するまでに時間がかかってしまい、工期が長くなる、という問題があった。
【0006】
以上の問題を解決するため、根切底に設けられた1本の支持杭と、この支持杭の杭頭に設けられた受け基礎と、この受け基礎から山留壁の背面に向かって打ち込まれたアースアンカーと、受け基礎と山留壁との間に架設された切梁と、を備える山留構造が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−252835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示された山留構造では、実際には、アンカーの定着長を敷地内に収めることは困難であるため、依然として、隣接地の所有者と交渉して許可を得る必要があった。
また、受け基礎を1本の杭に支持させるため、この杭の負担する水平荷重が大きくなり、切梁の反力をとるのが困難となる場合があった。
【0009】
本発明は、傾斜地であっても、隣接地の所有者と交渉することなく、切梁の反力を確実にとることができる山留および山留構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の山留は、構造物を構築するための山留であって、敷地の山側に構築された山留壁と、床付面に設けられて前記構造物の複数の杭の杭頭に固着された受け部と、当該受け部と前記山留壁との間に架設された切梁と、を備えることを特徴とする。
【0011】
山留壁は、例えば、親杭横矢板工法、シートパイル工法、SMW工法により構築される。
この発明によれば、山留を、山留壁、床付面に設けられて複数の杭の杭頭に固着された受け部、および、この受け部と山留壁との間に架設された切梁を含んで構成した。よって、受け部に作用する水平力に対して、受け部と床付面との摩擦力および各杭のせん断力で抵抗する。したがって、各杭の負担する水平荷重を小さくできるから、アンカーが不要となり、隣接地の所有者と交渉することなく、切梁の反力を確実にとることができる。また、各杭の杭頭に作用する水平力が小さくなるので、杭が損傷するのを防止できる。
【0012】
請求項2に記載の山留は、前記傾斜地には、既存構造物が構築されており、前記受け部は、前記構造物の杭の杭頭に加えて、前記既存構造物の杭の杭頭にも固着されることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、受け部を、新築構造物の杭の杭頭に加えて、既存構造物の杭の杭頭にも固着した。このように既存構造物の杭にも水平力を負担させることにより、新築構造物の杭の負担する水平力をさらに低減できるので、山留壁を支持するために新築構造物の杭を大径化する必要がなく、施工コストを低減できる。
【0014】
請求項3に記載の山留は、前記受け部は、前記杭頭に固着された無筋コンクリートからなる基部と、当該基部に一体に設けられてかつ前記切梁に連結された鉄筋コンクリートからなる受け梁と、を備えることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、受け部に、杭頭に固着された無筋コンクリートからなる基部と、この基部に一体に設けられてかつ切梁に連結された鉄筋コンクリートからなる受け梁と、を設けた。よって、従来のような受け基礎と異なり、受け部の大部分を無筋コンクリートの捨てコンクリートで形成できるので、施工が容易であり、切梁により山留壁を支持するまでの期間を大幅に短縮できる。
【0016】
請求項4に記載の山留構築方法は、構造物を構築するための山留を構築する山留構築方法であって、敷地の山側に山留壁を構築する工程と、前記構造物の杭を複数構築する工程と、前記敷地の一部を床付面まで掘削して、前記複数の杭の杭頭を露出させる工程と、前記山留壁から前記露出した杭頭に向かって切梁を配置し、前記床付面上に当該露出した杭頭および切梁に固着する受け部を構築する工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、山留を、山留壁、床付面に設けられて複数の杭の杭頭に固着された受け部、および、この受け部と山留壁との間に架設された切梁を含んで構成した。受け部に作用する水平力に対して、受け部と床付面との摩擦力および各杭のせん断力で抵抗する。よって、各杭の負担する水平荷重を小さくできるから、アンカーが不要となり、隣接地の所有者と交渉することなく、切梁の反力を確実にとることができる。また、各杭の杭頭に作用する水平力が小さくなるので、杭が損傷するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る山留が適用された敷地を示す断面図である。
【図2】前記実施形態に係る敷地の一部の平面図である。
【図3】前記実施形態に係る山留の受け部の部分断面図である。
【図4】前記実施形態に係る山留の切梁の下端部の断面図および平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る山留1が適用された敷地10の断面図である。図2は、敷地10の一部の平面図である。
敷地10は、傾斜地であり、この敷地10には、新築の構造物としての建物の杭30が複数構築されている。この杭30のうち建物の中央寄りに位置するものを杭30Aとする。この杭30は、支持層まで到達している。また、図1中破線で示す部分は、建物の基礎である。
敷地10には、建物を構築するための山留1が設けられている。この山留1は、敷地10の周縁に沿って構築された山留壁20と、床付面11に設けられて複数の杭30Aの杭頭に固着された受け部40と、この受け部40と山留壁20の上部との間に架設された支保工50と、を備える。
【0020】
山留壁20は、親杭横矢板工法により構築されている。山留壁20は、敷地10の山側に構築された第1山留壁21と、敷地10の谷側に構築された第2山留壁22と、を備える。敷地10は傾斜地であるため、第2山留壁22は、第1山留壁21よりも低くなっている。そのため、第1山留壁21の反力を第2山留壁22からとることが困難になっている。
【0021】
支保工50は、第1山留壁21の上部に設けられて略水平に延びる腹起し51と、この腹起し51から受け部40の受け梁42に向かって下方に延びる切梁52と、を備える。
切梁52の上端部は、腹起し51にピン接合されている。
【0022】
図3は、受け部40の部分断面図である。
受け部40は、杭30と一体に固着された厚さ50cm程度の平板状の無筋コンクリートからなる基部41と、この基部41の第1山留壁21側の端部に一体に設けられた鉄筋コンクリートからなる受け梁42と、を備える。基部41は、具体的には、捨てコンクリートである。切梁52の受け梁42側の下端部は、受け梁42に埋め込まれている。
【0023】
図4は、切梁52の下端部の断面図および平面図である。
切梁52は、H鋼である本体521と、この本体の下端に接合された端部プレート522と、本体521のウエブと端部プレート522とに接合されたリブプレート523と、本体521のフランジと端部プレート522とに接合された接合プレート524と、を備える。
【0024】
この切梁52の角度は、図1に示すように、水平面に対して約30°であり、従来のアイランド工法や受け基礎を用いた工法に用いられる切梁の角度よりも小さくなっている。
【0025】
このように切梁52の水平面に対する角度が小さいため、切梁52は、受け部40に作用する鉛直力や曲げモーメントを低減して、受け部40に対して主に水平力を伝達する。その結果、受け部40の断面積を低減して厚みを抑え、基部41を無筋で平板なコンクリート体とすることが可能となっている。
【0026】
この山留1では、第1山留壁21に作用する側圧は、切梁52を介して、受け部40の受け梁42に伝達される。この受け梁42に伝達された水平力は、基部41を介して、杭30に伝達される。このとき、水平力に対して、受け梁42と床付面11との摩擦力、および、各杭30のせん断力により抵抗する。
【0027】
また、以上の山留1は、以下の手順で構築される。
まず、敷地10の山側に第1山留壁21を構築し、建物の杭30を構築する。次に、敷地10の一部を床付面11まで掘削して、少なくとも杭30Aの杭頭を露出させる。次に、第1山留壁21の上部に腹起し51を設け、この腹起し51から露出した杭30Aの杭頭に向かって切梁52を配置し、床付面11上に露出した杭頭および切梁52に固着する受け部40を構築する。このようにして、受け部40と第1山留壁21との間に切梁52を架設する。
【0028】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)山留1を、第1山留壁21、床付面11に設けられて複数の杭30Aの杭頭に固着された受け部40、および、この受け部40と第1山留壁21との間に架設された切梁52を含んで構成した。よって、受け部40に作用する水平力に対して、受け部40と床付面11との摩擦力および各杭30Aのせん断力で抵抗する。したがって、各杭30Aの負担する水平荷重を小さくできるから、アンカーが不要となり、隣接地の所有者と交渉することなく、切梁52の反力を確実にとることができる。また、各杭30Aの杭頭に作用する水平力が小さくなるので、杭30Aが損傷するのを防止できる。
【0029】
(2)受け部40に、杭30Aの杭頭に固着された無筋コンクリートからなる基部41と、この基部41に一体に設けられてかつ切梁52に固着された鉄筋コンクリートからなる受け梁42と、を設けた。よって、従来のような受け基礎と異なり、受け部40の大部分を無筋コンクリートの捨てコンクリートで形成できるので、施工が容易であり、切梁52により第1山留壁21を支持するまでの期間を大幅に短縮できる。
【0030】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0031】
例えば、本実施形態では、受け部40を新築の建物の杭30Aの杭頭に固着したが、これに限らない。すなわち、建物の杭の杭頭に加えて、既存建物の残存した杭の杭頭にも固着してもよい。このようにすれば、以下のような効果がある。
(3)受け部を、新築の建物の杭の杭頭に加えて、既存の建物の杭の杭頭にも固着した。このように既存建物の杭にも水平力を負担させることにより、新築建物の杭の負担する水平力をさらに低減できるので、山側の第1山留壁を支持するために新築建物の杭を大径化する必要がなく、施工コストを低減できる。
【0032】
また、本実施形態では、互いに対向する山留壁の高さが異なる傾斜地に本発明を適用したが、これに限らず、互いに対向する山留壁同士の距離がかなり離れている敷地にも適用できる。
【符号の説明】
【0033】
1…山留
10…敷地
11…床付面
20…山留壁
21…第1山留壁
22…第2山留壁
30、30A…杭
40…受け部
41…基部
42…受け梁
50…支保工
51…腹起し
52…切梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を構築するための山留であって、
敷地の山側に構築された山留壁と、
床付面に設けられて前記構造物の複数の杭の杭頭に固着された受け部と、
当該受け部と前記山留壁との間に架設された切梁と、を備えることを特徴とする山留。
【請求項2】
前記敷地には、既存構造物が構築されており、
前記受け部は、前記構造物の杭の杭頭に加えて、前記既存構造物の杭の杭頭にも固着されることを特徴とする請求項1に記載の山留。
【請求項3】
前記受け部は、前記杭頭に固着された無筋コンクリートからなる基部と、当該基部に一体に設けられてかつ前記切梁に連結された鉄筋コンクリートからなる受け梁と、を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の山留。
【請求項4】
構造物を構築するための山留を構築する山留構築方法であって、
敷地の山側に山留壁を構築する工程と、
前記構造物の杭を複数構築する工程と、
前記敷地の一部を床付面まで掘削して、前記複数の杭の杭頭を露出させる工程と、
前記山留壁から前記露出した杭頭に向かって切梁を配置し、前記床付面上に当該露出した杭頭および切梁に固着する受け部を構築する工程と、を備えることを特徴とする山留構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−174278(P2011−174278A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38704(P2010−38704)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)